長嶋茂雄さんへの哀悼の意を込めて

 「ミスタープロ野球」として親しまれた長嶋茂雄さんが、89歳で逝去されました。
 日本プロ野球界の象徴の訃報に、日本全国の野球ファンのみならず、多くの人々が深い悲しみに包まれています。

 V9時代の中でも、とりわけ長嶋さんはジャイアンツの顔でありスーパースターでした。ダイナミックなバッティングフォームも華麗な守備も、長嶋さんの全てのプレーに観客は沸き、小学生だった私も魅了されていました。

 私が大学生の頃、長嶋さんの講演会に参加する機会がありましたが、そこで「観客を楽しませることがプロの使命だった」と語っていた姿が印象的でした。例えば、空振り三振を喫した際にヘルメットが飛ぶように、鏡の前で素振り練習を重ねたことや、入団後、広岡達朗さんの難しい打球をいとも簡単にさばく華麗な守備を見て、自らは簡単な打球を難しく捕球するためにわざと出足を遅らせることもあったというエピソードを持ち前の言い回しで、ユニークにお話されていましたが、その時、長嶋さんが真のエンターテイナーであったのだということを再認識できました。

 長嶋さんの功績は、単なる野球の枠に留まりません。彼の活躍によってプロ野球人気が飛躍的に向上し、日本のスポーツ文化に大きな影響を与えたことはご案内のとおりですが、講演会を聴講して、私は長嶋さんの「観客ファースト」の精神を強く感じました。ビジネスの世界にも通じるものがあるのではないでしょうか。
 観客を楽しませることを最優先に考え、さらに、野球界全体のことも常に意識していました。長嶋さんがプレーのひとつひとつに細かな工夫を凝らす姿勢は、企業経営においても重要な視点です。
 また、簡単な打球を難しく捕球する工夫をしたというエピソードも、セルフマネジメントの視点で見ると「差別化戦略」として非常に興味深いものです。

 彼は自分の強みを理解し、それを際立たせるための独自の工夫を施すことで、唯一無二の存在となりました。
 これは、ビジネスの世界でも重要な「ブランディング」の考え方に通じるものがあります。

 私はこの講演会の後、「自身はどうあるべきか」「何をなすべきか」と考える機会が増えました。そのことを改めて思い出しました。

 長嶋茂雄さんの存在は、これからも日本野球界に留まることなく、広く語り継がれることでしょう。心よりご冥福をお祈り申し上げます。